2月から3月にかけて映画館で観た映画を書き出してみる。新作だと『イニシェリン島の精霊』『ベネデッタ』『逆転のトライアングル』『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』。最近お気に入りのミニシアターStrangerで、ドン・シーゲル特集から『ドラブル』『殺人者たち』、ピエール・エテックス特集から『破局』『恋する男』『ヨーヨー』『絶好調』『健康でさえあれば』といったところ。
春は眠気を誘う季節だという通説に従いなんとなく毎日ねむい。いやねむいのは季節にかかわらずいつでもそうだとも思い直す。だとするなら何かしらの睡眠障害なのかもしれない。睡眠の質を向上させようとする枕メーカーの売り文句に踊らされてるだけかもしれない。
2月3月は割りと映画館に足を運んだ方。一番楽しみにしていたのはヴァーホーヴェンの新作『ベネデッタ』で、そのくせ前半ベネデッタがキリストと出会うシーンあたりではうとうとと。昼飯後の映画館はねむりに行くようなものだ。ベネデッタが夢にうなされて発狂するようになった頃、意識が回復してくる。
ベネデッタが聖女かどうなのかはどうでもよくて、嘘も本当も飲み込んでしたたかに一個人として生き抜く様が時代を超えて多分感動的なんだろう。彼女が恋人の女性とお互いフルヌードで原野に佇むラストは清々しい。それを真正面に捉えるヴァーホーヴェンをこそ讃えるべきなんだろう。期待に違わない傑作だった。
もう早速映画について書くことが、陳腐な感想や新作の紹介それも「新作見ました。よかったです」的な「#映画好きと繋がりたい」な内容に堕していこうとしている。感想を書くのを避けたいのは、たいした感想がないから。何を観てもたいてい「よかった」としか思えないし、「よかった」とだけ言いたい。観た映画はなるべくよいところを見つけて、そこを取り上げて「よかった」としたい。よいところがなくても「こんなによいところがない映画も珍しい。かえってそこに価値がある」と観るようにしたい。Always Look On The Bright Side Of Life.
邦画の話題作はそういえばことごとくスルーしている。邦画の話題作って何だっけ?『スラムダンク』『ワンピース』『ブルージャイアント』とかか。全部アニメだ。わからないものには触れてはいけない。先日東洋経済オンラインで「日本の洋画離れが加速、23年興収初速に見る深刻」という記事を目にして、昨年は『トップガン マーヴェリック』のヒットがあったものの、年初の話題作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』『バビロン』はパッとせず、ここ20年近く続く洋画低迷がコロナ禍を経て「より拍車がかかっ」たと記事では説明している。そうなのか洋画ばかり観ているのは少数派なのか。洋画を好んで観ている認識はあまりないけど。『アバター』『バビロン』はそもそも魅力に欠けてたとは思う。続編や大スター共演にあるのは魅力ではなくて安心感ではないかと。加えて『アバター』はヒーリング効果高そうである。
今はStrangerのプログラムが魅力的。ドン・シーゲル特集に続き、ピエール・エテックスのレトロスペクティヴ。エテックスは実は初知りだったのだけども、ジャック・タチの弟子で無声映画の喜劇とサーカスへの愛に溢れたフレンチコメディの隠れた才人という惹句に易々なびいてしまう。そして今日は半日Strangerで過ごすと決めて足を運び、酸味の効いたブレンドコーヒーと居心地の良い館内の雰囲気にやっぱりうとうとする。エテックスのジェントルな物腰にもねむりを誘うものがある。
そういえばこの時期はアカデミー賞だった。今年の第95回米国アカデミー賞は、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が作品賞、監督賞、主演女優賞、助演女優賞、助演男優賞など主要な賞で最優秀を獲得して大きな話題になった。ちょうどアカデミー賞の発表がある数日前に『エブリシング〜』をTOHOシネマズ新宿で観ていて、よく言えばテンポがよくて笑って泣けて楽しいなのかもしれないけど、別の言い方をすればむやみに性急でガチャガチャしていてそれでいて長いし風呂敷広げた割にはこぢんまりとした家族愛の話に落ち着いたとも。母と娘がお互いに相手を慮って歩み寄ったりするとそれだけで自然と涙がにじむのは、もう作品の良し悪しではない気がする。
他の人間などほとんどどうでもいいとばかりに我が道を逞しく生きるヴァーホーヴェン描くところの女性の方が感動的じゃないかと。ベネデッタに限らず、ヴァーホーヴェンの過去作『グレート・ウォリアーズ/欲望の剣』の王女や『氷の微笑』の女性作家や『ショーガール』のストリッパー然り。もういっそヴァーホーヴェンには『アマゾネス』を好きなように撮ってもらいたい。清濁併せ呑んだ存在しないその映画を夢の中で観よう。Meaning Of Life.