映画はねむい 2025年7月

  • 1年と5か月振りくらいに更新。7月だけど書いてる内容は3月から6月にかけてうとうと観ていた映画について。久し振りなのであらためて記しておくと、「映画はねむい」は批評でも感想ですらもなく、映画を観たこともしくは観ながら寝たこと、それと生活の中での映画を観ることのそんなに重要でもないことについて、ドローイングのように書くことを試みるもの。まるでわからない。あらためて記すと書きながら、以前にこんなことを書いた覚えがない。またこれから頑張って月に一度は更新していく予定なので、その中で「映画はねむい」とは何なのかを考え直したりしようかと。

 

  • 3月から4月にかけて勝手にニコラス・ケイジ祭りを開催。2010年代後半から現在にかけての出演作を中心に、観た順に『ドリーム・シナリオ』(2024)、『カラー・アウト・オブ・スペース』(2019)、『マンディ 地獄のロードウォリアー』(2017)、『リタイアメントプラン殺し屋の引退生活』(2023)、『ウィリーズ・ワンダーランド』(2021)、『マッド・ダディ』(2017)、『ザ・ビースト』(2019)、『マッシブ・タレント』(2022)、『レンフィールド』(2023)といった感じ。SF、アクション、バイオレンス、ホラー、コメディとバランスよく程よいジャンルものに出演するニコラス・ケイジ。長髪だったり、ハゲだったり、パワハラドラキュラだったり、落ち目のハリウッドスター(自身のパロディ)だったり、いろんな役を演じるニコラス・ケイジが楽しい。そんなに肩ひじ張らずに、時間つぶしになにか一本観たいな、というのにちょうどよい作品ばかり。それなりに観た時間を楽しく過ごせて、その後あまり引きずらない(忘れてしまう)というのがよいところ。映画はこのくらいでいいんじゃないかと。『カラー・アウト・オブ・スペース』や『マンディ 地獄のロードウォリアー』はもしかしたらカルト的な作品になる可能性もあるけれど、『リタイアメントプラン殺し屋の引退生活』なんて、リーアム・ニーソン主演の冴えないオッサンが実はとんでもなく強かったみたいなアクション映画がいくつかあると思うけど(あんまり観ていない)、それの安っぽいパロディ。ニコラス・ケイジがわざわざ出ている理由がよくわからない。今振り返ってみると、意外と印象に残っているのは『ウィリーズ・ワンダーランド』で、無口なニコラス・ケイジが悪霊の宿った遊園地のマスコットキャラをバッタバッタとやっつけていくだけの話。無残に殺される若者たちが間抜けにしか見えないくらいニコラス・ケイジが無双過ぎる。もうニコラス・ケイジは無双が許される俳優なのだろう。『ロングレッグス』(2023)の白塗り人形師役は監督がきちんと演出してなのか、編集でうまいこと調節してなのか、ニコラス・ケイジ味がやや薄まっていたようだったけど。

 

  • 『サブスタンス』(2024)、かつてのハリウッドスター、デミ・ムーアの渾身の演技が見もの。美と若さに執着させる社会を皮肉ったテーマが今時。といったところで世間では話題になっていたようで、確かにそうした部分でも充分観応えはあった。ただ楽しんだのは後半、80年代のスプラッターホラーやモンスターホラーを彷彿とさせる展開、演出がやり過ぎなくらいで最高。ボディホラーの傑作だなんていう声も聞こえたけれども、ボディホラーって呼称にあまり馴染みがなかった。肉体が変形・変容するホラーのこととか。クローネンバーグの作品は昔からボディホラーと呼ばれていたんだっけか。ストーリーは、往年の名女優が唯一?出演しているテレビの看板番組(エアロビ番組)を干されて、若さと美貌を取り戻すために地下で流通している謎の若返り薬「サブスタンス」を服用する。それによって生まれたもう一人の若返った自分が再びスターへと返り咲くのだけども、一方で年老いた自分は惨めな日陰暮らしへと落ちぶれていく。自身の醜い部分が美しい容姿を伴って外在化するというのがビジュアル的に面白い。最後は美醜を、老若を超えて新たな生命の爆誕となり、それを祝うかのように血のシャワーが降り注ぐ。監督コラリー・ファルジャの前作『リベンジ』では、ミーハーなギャルが屈強なリベンジャーに生まれ変わって男どもに鉄槌を下す。生まれ変わった女性を祝福するかのように、ここでも最後は大量の血とともに狂乱の鬼ごっこが展開される。

 

  • 『ピンク・フラミンゴ』(1972)を初めて観たのは多分学生時代だからもう30年近く前だろうか。その当時でもすでに公開から20年以上経っていて、当然すでにカルト作として燦然として輝いていた。90年代の悪趣味ブームをかじっていた身としては、悪趣味の代名詞である『ピンク・フラミンゴ』を通らないわけにはいかず、レンタルビデオだったのか、どうにかして観る機会を得ることができた。いかにもチープな自主制作品質に生々しい低俗な行為が映し出され、当時いったい何を思ったろうか?イディス・マッセイ演じる母親の「エッグ、エッグ」とおねだりする声に震えただろうか?仕返しを企てるディヴァイン一家がライバル夫婦の家に乗り込んで家具を舐め回す姿に感動したろうか?しかし肝心の肝心な部分は大きくモザイクが被さり観れなかった。話に聞いていた肛門で歌うショーも、露出狂同士の対決も、ディヴァインが息子の息子をナニするのも。それから約30年、新宿シネマートの企画『コケティッシュゾーンvol.2』で『ピンク・フラミンゴ』が期間限定上映されるという。モザイクの向こう側を確かめに、際どい表現が次々と叩かれるこのご時世に、これはなんとしても観たい。で観に行った。初見時から30年以上、初公開からは50年以上が経っているというのに『ピンク・フラミンゴ』は全く色褪せることのないインパクト。無修正であらゆるものがクリアに、その上スクリーンで観れたことのなんとも言えない愉楽。念願の肛門をパクパクさせるシーンもようやく観ることができた。見ているこちらの肛門もむず痒くなるグロかわいさ。露出狂の女が実はニューハーフだったと、今回モザイクが晴れたことで実は初めて知った。ディヴァインの一挙手一投足は神々しく、どんな理不尽にも説得力を持たせる。シーンを切り出せば下品、低俗、グロテスクとしか形容できない要素ばかりだけど、筋としては対立する変態一家vs変態夫婦の攻防といういわばアクション映画みたいなもの。自身のバッドテイスト、奇矯な友人、閑静な郊外といったものを、見る人を選ぶとはいえエンタメとしてまとめあげたジョン・ウォーターズの演出力は並外れている。トレーラーハウスに実際に火を放ち燃え上がらせるなんて!静かに感動。自身の身の回りにある素材、環境を十二分に活かし、これだけの作品がつくれるというのは希望があるなあと。