- キム・ギヨン監督の『異魚島』(1977)を観た。これで『イオド』と読む。タイトルの何とも言えない禍々しさに負けず劣らず本編も禍々しい。男性は早死にするという謎めいた因習の残る女だらけの島での子作りを巡るホラーともコメディともよくわからない作品。女シャーマンが僻地の島を牛耳り、男たちは子作りの道具として消費される。死んでもなお。そればかりが印象的であとはもう細かいことを思い出せない。この映画を観たのは、昨年、一昨年とお世話になっていた根本敬先生が講師を務める美学校の講座『特殊漫画家前衛の道』クラスの、夏の補講ともいえる映画上映会。『異魚島』のほかに、国共内戦以降の中国現代史の荒波に揉まれる家族のドラマを描いたチャン・イーモウ監督の『活きる』、部落差別、被爆者差別の残る地域で起きた強姦事件の顛末を描いた熊井啓監督の『地の群れ』という計3本がラインナップ。なんとも濃厚な、さすが『特殊漫画家前衛の道』クラスである。上映会開始時間に間に合わず、結局丸々観られたのが『異魚島』のみ。思い返せば、キム・ギヨン監督作品、これまで観たのは『死んでもいい経験』(1990)も、『水女』(1979)も『特殊漫画家前衛の道』クラスの授業の中でだった。キム・ギヨン作品を自らの意思で観るのでなく、唐突に外からの力で見せられるというのはなかなか得難い体験ではないだろうか。
- 千葉真一がアクション映画スターとして輝いていた頃を知らない。『直撃!地獄拳』(1974)はアクションスター千葉真一の作品というより、キッチュなアクションコメディとして昔観たことがあったくらい。1~2年前に久し振りに再見したけど、郷鍈治、佐藤充との掛け合いが楽しく、石井輝男の外連味もあってなかなか楽しい。アマプラのサブスクチャンネル「東映オンデマンド」で70年代の東映エクスプロイテーション映画をちびちびと観ているのだけど、なんとなく千葉真一モードになってきて、『やくざ刑事』シリーズ4作(1970~71)と『ボディガード牙』シリーズ2作(1973)を春から夏にかけて観た。どちらのシリーズも千葉真一のギラギラと脂ぎったアクション、野生的で無垢な眼光とチャーミングな魅力が詰まっている。と書くとあまりに定型的に過ぎるなと。にしても『やくざ刑事』(刑事は「デカ」と読む)とはなんてストレートで引きの強いタイトル。これでシリーズ4作つくられている。声に出したいタイトルなので、1作目から順に並べると『やくざ刑事』、『やくざ刑事マリファナ密売組織』、『やくざ刑事恐怖の毒ガス』、『やくざ刑事俺たちに墓はない』。どの作品も似たような話。千葉真一は腕利きの刑事で、やくざ組織に潜入捜査して壊滅させるというミッションを担って毎回活躍するんだけども、捜査手法ががさつでそこがいいところなんだけども毎回余計な騒ぎを巻き起こす。敵対関係にある内田良平と反発しながらも友情関係を結んだり、相棒の刑事南利明とコミカルな掛け合いを見せたり、バディものの要素も楽しい。『ボディガード牙』シリーズは、千葉真一が刑事でなく私立ボディガード役というだけで中身は『やくざ刑事』とあまり変わらないかな。大山倍達が空手指導とゲスト出演していて空手アクション映画としての楽しみもあるかと。千葉真一の妹が毎回ひどい目に遭うのが可哀そう。70年代の映画は、主人公に枷を与えるのに主人公の身内に容赦ない暴力を加えたりしがち、じゃないかと。
- TXQ fiction『魔法少女山田』を観た。『異魚島』、千葉真一ときて『魔法少女山田』だと、どうも薄味な感じがしてしまう。その薄味なとこに魅力がある作品だと思うけれども、観た日からもう2か月近く日が経って、この作品について書くにあたって観返しもしていないので、薄味の魅力がどういうものなのかを自分でももうよくわからない。「歌うと死ぬ唄」の都市伝説の謎を追うYouTuberと、「魔法少女」おじさんの日常に迫ったドキュメンタリー映画作家、それぞれの行動、思惑が入り乱れ、トラウマ的なある惨事の事実が明らかにされる?そんな話だったろうか。薄味ということはない。理知的な仕掛けがいくつも施されていて、透明だけどもコクがあり味わい深いラーメンのスープみたいな。ラストはゾッとしたし、よくできているなと。でもよくできているほどに、「よくできている」以上に思えない。TXQ fictionシリーズの第一弾『イシナガキクエを探しています』、第二弾『飯沼一家に謝罪します』も観たのだけれど、どちらも面白かった。決定的な何かをあえて明示しない。テレビ番組らしいリアリティとフィクションとの境目をついた構成。「理知的だなあ、よくできているな」と。でも「よくできている」以上になぜだか思えない。そういえば、このTXQ fictionとは逆になるのか、嘘みたいだけどホントの話の『キムズ・ビデオ』(2023)を映画館で観た。ニューヨークにかつてあった伝説のレンタルビデオショップの貴重なVHSビデオ55,000本が、シチリアに渡ったきり行政の怠慢で死蔵されているのでなんとか救い出したい。とビデオの行方を追っていただけのドキュメンタリーから、撮影している本人が当事者としてビデオ奪還の犯罪まがいの行為に加担する。でなぜかめでたくビデオを一部ニューヨークに持ち帰ることに成功するという。こっちはモキュメンタリーっぽいのにホントの話なのらしい。
- 虚実皮膜の間とは近松門左衛門の芸術論ですか、嘘かホントかよくわからないところというのはマグロのカマのように美味なるものとは確かに思う。ケン・ラッセル監督の問題作『肉体の悪魔』(1971)がBlu-rayで出たので購入して観たのだけど、これは17世紀にフランスで実際に起きたという「ルーダンの悪魔憑き事件」をベースにしたオルダス・ハクスリーの小説『ルーダンの悪魔』を原作としている。これも一応歴史的な事実を基にした映画で、嘘かホントか、というかもうそんなことどうでもいいくらいケン・ラッセルの外連味が爆発していてただ魅惑的で楽しい。間(あわい)とかなんとか言わずにこれくらいふっ切れてる方が気持ちよいかと。
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